「練習は不可能を可能にす」
この言葉しか知りませんでした。
正確に言えば「そういうことを書いた碑がある」ということしか知りませんでした。
しかも、この言葉を聞いた当時の感想は「そんな、精神主義的な・・・」というものでした。
さて、現在、三田キャンパス・旧図書館2階大会議室(いつも評議員会を行うところ)において「小泉信三展」が開催されています。
生誕120年記念 小泉信三展
先日、見に行ってまいりました。

「あぁ、今日まで知らなかった・・・(損した)」
というのが、展示を見た正直な感想です。
小泉信三君(ここは敢えて「君」で)は、1988(明治21)年に福澤先生の愛弟子の一人であった小泉信吉の子として生まれ、1966(昭和41)年に78歳で亡くなった元塾長であると同時に東宮(今上天皇)御教育参与も勤められた方です。
特にこの小泉君は、父・信吉の急逝により一時福澤邸内に住み、福澤先生と生活を共にし、生きた福澤先生の姿を戦後にまで伝えることになった人物でもあります。
若き日には「慶應の麒麟児」と呼ばれ、
戦後の言論界では「日本の良識」、
没後には「勇気ある自由人」とも称された人物です。
・・・ということだそうなのですが(展示資料、図録によれば)、
知りませんでした、実際にこの目で展示を見るまでは。
展示、すごく面白かったです!
(「すごく」かどうかは、感じ方次第かもしれませんが)
まず、今回の展示の対象となっている時代が面白い。
小泉君の生まれた1988年から6年後、日本は日清戦争をはじめ(94年、95年)、また彼が人格を形成下であろう10代後半には日露戦争(04年、05年)がありました。
途中、1901年には福澤先生がお亡くなりになられています。
1914年からの第一次大戦は留学先のドイツ、イギリスで迎えています。
塾長になったのは45歳、1932年。3月には満州国建国、5月には5・15事件、7月にはナチスが第一党になるなど、きな臭い匂いが漂い始めたころです。
塾長に再任された1937年は、7月に盧溝橋事件、12月に南京攻略。
塾長に三選された1941年は、12月に太平洋戦争への突入を迎える。
塾長の任期を全うした1947年には、「創立90年記念式典」が開催。
創立百年記念式典を迎えた1958年は、小泉君みずからが評議員会議長に選出されたのみならず、彼が御教育参与として教育にあたっていた皇太子の婚約が発表に。
亡くなる年、1966年には、岩波新書で『福澤諭吉』を刊行。
とまあ、近現代の日本の重要なポイントポイントを「横で見た(ないしは当事者になっていたことも)」時代の証言者として、その当時の義塾が置かれた状況と、塾長としてのその状況への対応が、様々な資料によって描かれているわけです。
その昔、『学問ノススメ』を読み終わったときに、「あの時代に、よくこれだけのことを、きちんとまとめることができたな」と、素直に感心したのを記憶していますが、
今回のこの展示会でも「あの時代に、よく軍部からの圧迫に堪えて、義塾が義塾であることの存在意義を守り通したな」と感心しました。
会期は21日まで、土日も開会しているので、ご興味がある方はぜひ。
どんな組織でもそうですが、一朝一夕に現在の規模になったところは一つもないはずです。本当は、その成長・拡大過程における血の滲むような努力や、心ある人たちの絶え間ない努力によって「偶然」今の形ができあがってきたというところがほとんどのはずです。
(頑張っていた人間にとっては、そうなるのは「必然」じゃないと困りますが、やはりそれは大部分の人にとっては「偶然」でしかないはずです)
わが義塾にしても、小泉君が義塾に入った当時、福澤先生こそ有名だったとはいえ、私塾の規模はそれほど大きなものではなかったはずです。
しかも、この福澤を塾祖としていたが故に、戦争中は「福澤は西洋文明を導入した国賊」として、激しいプレッシャーに晒されていたはずです。
とはいえ、その状況を乗り越えて今日があるわけですが、「今日」しか見えない人間にとっては、義塾が現在の状態を維持していることは当たり前でしかなく、この状況が「支えなければいけないもの」「不断の努力で築きあげられているもの」だとは思えないはずです。そう現実は甘くないわけですが・・・・
この「小泉信三展」、一見の価値ありです。
ちなみに今日15日は、
福澤先生ウェーランド経済書講述記念日でもあり、福澤先生ウェーランド経済書講述記念講演会が開催されました。
・福澤先生ウェーランド経済書講述記念日
・福澤先生ウェーランド経済書講述記念講演会
講演:「慶應ボーイ小泉信三 気品の泉源・智徳の模範の体現者」
(講師:塩澤修平君(慶應義塾大学経済学部長))
また、この夏に公開される
『ラストゲーム/最後の早慶戦』の特別試写会も行われていました。
・『ラストゲーム/最後の早慶戦』特別先行試写会

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11月8日:「創立150年記念式典」まで、あと177日
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